た、実に淋しい白さがあった。田舎から見舞に来た子供達が、丁度帰ったあとだった。たべちらした物の跡が、部屋一面に散乱していた。楽しげな子供達を乗せた汽車が、私の目に勇ましく鉄橋を渡った。子供を楽しく暮させるために、如何なる仮面をも創り出す人だった、私の姉は。姉は子供について語った。長女に結婚の話が持ち上っていた。その心配で、姉は病を忘れがちだった。私は煙草を何本もふかした。姉は私にマッチを擦った。姉は私の吸いがらを掌にのせて、長くそれをもてあそんでいた。夢に植物を見ると姉は語った。
「お前のために素敵な晩餐会を開きたい……」
その言葉を、姉は時々くり返した。私は、ルイ十四世が、かつて開いた宴会の献立を、姉に語った。姉は山毛欅の杜で食事をしたことがあったと語った。虚勢を張って、二人はいつまでも、空々しい夢物語をつづけた。毎日病院を訪れることを約束した。子供達の見えない日には、私が病院に泊まることを約束した。
雪国の真夏は、一種特別の酷暑を運んだ。ひねもす無風状態がつづいた。そのまま陽が落ちて、夜も暑気が衰えなかった。姉はしきりに氷を摂った。窓の外に、重苦しく垂れている無果花の葉があった
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