ることを、滑稽な程悲痛に、意識した。私は陸《オカ》へ這い上った。私は浜にねた。私は深い睡りにおちた。
その夜、病院へ泊った。私は姉に会うことを、さらに甚しく欲しなかった。なぜなら、実感のない会話を交えねばならなかったから。そして私は省るに、語るべき真実の一片すら持たぬようであった。心に浮ぶものは、すべて強調と強制のつくりものにみえた。私は偶然思い出していた。彼女に再び逢う機会はあるまい、と。それは、意味もなく、あまり唐突なほど、そして私が決して私自身に思い込ませることが出来ないほど、やるせない悲しみに私を襲うのであった。私は、かような遊戯に、この上もなく退屈していた。しばらくして、もはや無心に雲を見ていた。
姉も亦、姉自身の嘘を苦にやんでいた。姉は見舞客の嘘に悩んで、彼等の先手を打つように姉自身嘘ばかりむしろ騒がしく吐きちらした。それは白い蚊帳だった。電燈を消して、二人は夜半すぎるまで、出まかせに身の不幸を歎き合った。一人が真実に触れようとするとき、一人はあわただしく話題を変えた。同情し合うフリをした。嘘の感情に泪ながした。くたびれて、睡った。
朝、姉の起きぬうちに、床をぬけて海
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