すと、芸があらば抱へよう、致してみよといふわけで、東国方の旅人はあるひは相撲が得手だとか、人を馬にする術を心得てゐるなんぞと言つたあげくが失敗して、やるまいぞ/\と追はれることになるわけであります。
若い時に旅をせねば、老いて物語がないといふ、勿論さきほどの十三の娘の等身の薬師仏をつくり、それに祈つてまであまたの物語が見たいといふ、その物語とは異り、単に話の種といふほどの意味でありませうが、皆人の仰せらるるには、若い時に旅をせねば、老いて物語がないと仰せらるるにより、俄に旅にでたといふ滑稽な独白を読むたびに、土民の感情に生きてゐるあたたかい生き甲斐の悲しさに打たれ、ほのかな明るい放心を覚えずにゐられなかつたのでありました。
薬師仏にぬかづいても読みたいといふあの物語この物語。いづれはそれらも物語といふからには、元来物語られたものであつたには相違ありますまい。ちようど、夜のまどゐに、学芸会に、日頃の覚えを語りだす情熱あふれる若人達の物語のやうに。恐らくプルウストやバルザックが婦人達にその物語を披露するとき、その精神も情熱も、学芸会の若人以上に高遠であつたとは言へますまい。それだから何
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