題にはなりますまい。
僕は先日「松浦宮物語」といふものを読みました。次のやうな筋なのです。昔藤原宮の御時、参議氏忠といふ人があつた。七歳で詩をつくるほどの天才であつたが、心も美しく、また容貌もすぐれて、帝のいつくしみを受け十六歳で早くも中衛少将となり、従上の五位となつた。皇后の御腹のかんなひこのみこに恋したが、かなはず、失恋に歎き苦しんだ。翌年遣唐使をだされることになり、氏忠は十七の若いみそらで副使となり、はるばる唐へ赴いた。八月十五夜のことであつた。月にさそはれて唐の都の郊外を歩いてゐると、陶弘英といふ老翁の手引で、皇帝の妹の華陽公主から琴を習ふことになつた。仙人の秘曲をこの世につたへる因縁のためなのである。華陽公主の美しさに、ともすれば乱れがちになるのを、ここは仙人の通ふうてなだからと公主にいはれて、五鳳楼のもとであふ約束をする。公主がこの世に生れたのは仙人の秘曲を伝へるためで、契を結べばたちどころに命をめされるのであつたが、命をかけてもあはうと思ふならばといつて、約を果し、華陽公主は逝去された。やがて氏忠は唐の皇帝に重用され、政に参与するほどになつたが、皇后の美しさに、その面影
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