言ふために、かうしてお喋りしはじめたのでした。さて、いよいよそれを言つてみますと、僕は別段プルウストのやうに、美しい婦人の友達を得て、自分の小説を語つてきかせる立場が欲しいと思つてはゐないのですよ。僕は少年の頃、学芸会の余興なんぞに、落語を語るのが得意でしたつけ。ですが今は――むろん美しい友達に小説の話もするでせうが、それによつて、僕の作品が高まる筈はありません。プルウストももとより同断。中にはスタンダールなんといふ感激好きの騎士もゐて、メチルドなどいふ夢の観音をでつちあげて、その精神も芸術も常に高められてゐるやうな誇大なことを好んで言ひふらしてゐるのですけど、さうして実は僕もさういふ嘘つぱちな感動を言ひふらすのが好きなんですけど、実際は――君はにや/\笑ひだしてゐるやうですね。実際は、感激したり力んだりしてみても、いざ実際に作品となれば、そんな魔術は薬九層倍ほどの御利益もありません。
 薬師仏にぬかづいてあまたの物語をみせたまへと念じた乙女は、十三の年京にのぼり、思ひの通り数々の物語を読むうちに、いつとなく物読むことからも遠くなり、「辛うじて思ひよることは、いみじくやんごとなきかたち
前へ 次へ
全17ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング