て、娯楽雑誌や、黙殺される雑誌に、却つて自信のある作品がのるやうな巡り合せになることが多かつた。その作品にも多少は系列みたいなものがあるのだから、こゝに一冊にまとめる喜びは特別でした。
「いづこへ」といふ題の小説は他の作家にも数種あつて、まぎらはしいといふ話でしたが、現在の私自身、いづこへ行くのやら、わが行先が分らない。曠野を歩いてゐるだけ。だから「いづこへ」といふ題名は一つの小説の題名ではなく、私は執着した。「いづこへ」といふ小説を特に自負してゐる意味ではありません。私は先程もペンを投げだして、どこへ行くのやら、ふと、思はずにゐられなかつた。
私自身が何者であるかは私には分つてゐない。たゞ、私は書くことによつて、私を見出す以外に仕方がない。私は原稿紙に向ふと、いつも、もどかしいだけで、そして、何がもどかしいのだか、それすらも、分つてゐない。
そして、それならば、書きすてゝきたものゝ中に私が在るかと云へば、さういふ確たる自負は、全く、私には、ない。私はたゞ、いつも探しもとめ、探しあぐつて、さまようてゐるだけのジグザグの足跡だけ。私はいつたい何者なのだか、みなさんよりも、私自身がそれ
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