ていて、自分の言葉でない、人の借り物を一行も書くと、それが気がゝりで、そこの頁をひらくことも出来ず、思いだすたび、赤面逆上、大混乱、死にたくなってしまうものだ。
古墳殺人の作者ときては、これは文章から人物の配置から、何から何まで、ヴァン・ダインの借り物じゃないか。ヴァン・ダインの頭の悪さを、更に借り物にして、いったいこのバケモノは何だろう。
日本人が、こんなヘンテコな言葉で喋っていますかね。日本の刑事に、こんなヘンテコな言葉づかいの、歯のうくようなキザなのがいますかね。
シチュエーションからトリックから、バカラシサ、あの愚劣な出来そこないの衒学性で、みんなヴァン・ダインの借り物で、これで一人前の作家で通用する日本の探偵小説界は、なんとまア、悲しく、貧しい雑草園でしょうか。下の下の下だ。私は、読みながら、読んでる私が、羞しくて、赤面して、羞しさにキャッと叫んで、逃げて走りたくなるのだ。なんという、ひどい、貧しいあさましい小説でしょうか。
どうか、助けて下さい。読者に、こんな羞しい思いをさせないで下さい。私は、赤面するために探偵小説を読んでるのではないのです。
どんなにまずしくと
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