リ顔色を変える、あそこも、まずい。あそこで、ハッキリしすぎてしまう。こういう際には、写真を見ないうちに、兄を殺させる方がよろしく、すべてトリックは、そういう工夫に細心の注意を要する。
元々探偵小説のトリックというものは、根は、それだけの、ハッキリした、分りきったものだ。それを裏がえしにして、さりげなく、分らないように、色々と術を弄し策をほどこして、読者に提出して行く、その提出の仕方に、工夫が要るのである。
この作者は、よいトリックをもち、性本来ケレンがなく、論理的な頭を持っているのだが、つまり、読者に提出して行く工夫に、策が足りなかった。そして、文章もまずい。まずいけれども、さのみ不快を与えるほどの文章でもないから、これから筆になれゝば、これで役に立つだけの文章力はある。大切なことは、トリックを裏がえしにして、読者に提出して行く場合の工夫に重々細心の注意を払うことを知ることである。
私は、この作者は、未来があると思っている。ケレンがなく、頭脳が論理的だからである。以後は、横溝君に弟子入りして、テクニックを学ばれるがよい。他の探偵作家はダメである。君の師とするに足る人はいない。みん
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