きていたことのない一流の芸術などはあるはずがないのだから。
 人形や歌舞伎や能楽とても同断である。粋や通なるものから血の通わぬ名人芸は生れるかも知れないが、本当に民衆の血とともに育つ一流の芸術は生れない。われわれがそれを期待してよろしいのは、ジャズや、ストリップのような、時代的に最も俗悪なもののなかからだ。最も多くの志望者と切実な生活の中から現れてくるのだから。それが生きている時は俗悪な実用品にすぎないものが、古典となる時に、芸術の名で生き残る。生きながら、反時代的な粋や通に愛され、名人の名をうけるものは、生きている幽霊にすぎないのである。



底本:「坂口安吾全集 09」筑摩書房
   1998(平成10)年10月20日初版第1刷発行
底本の親本:「中央公論 第六五年第八号」
   1950(昭和25)年8月1日発行
初出:「中央公論 第六五年第八号」
   1950(昭和25)年8月1日発行
入力:tatsuki
校正:花田泰治郎
2006年3月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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