カめなる人間らよ、私は悪人ではなかったのだ。
おお、数時間後には死するのか。そして、一年前のこういう日には、私は自由で清らかで、秋の散歩をし、木立の下をさまよい、木の葉の上を歩いていた、ということを考えると!
三五
今この時間に、私のまわりには、パレ・ド・ジュスティスの建物とグレーヴの広場とをとりまいてる人家のなかには、往き来し、談笑し、新聞を読み、自分の仕事のことを考えている、多くの人々がいる。物を商ってる商人たち、今晩の舞踏会の長衣を用意してる若い娘たち、子供と遊んでる母親たちがいる。
三六
ある日子供の頃、ノートル・ダームの釣鐘を見に行ったときのことを、私は覚えている。
薄暗い螺旋階段をのぼり、二つの塔をつないでいる細長い回廊を通り、パリを足の下に見て、私はもう目がくらみながら、石と木との檻の中にはいっていった。そこから鐘鐸《しょうたく》のついた釣鐘が千斤の重さでさがっていた。
よく合わさってない床板の上を私はふるえながら進んでいって、パリの子供や人民のうちにあれほど名高いその鐘を、すこし先のほうに眺めた。ななめの屋根で鐘をとりかこん
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