窒スるこの手記もその一助となって……。
せめて、私の死後、これらの紙片が泥にまみれて監獄の中庭で風になぶらるることさえなければ、あるいは、看守のガラス戸の破れめに点々と貼られて雨に朽《く》ちることさえなければ……。
七
私がここに書いてるものが他日他の人々の役に立たんこと、判決しようとする判事を引き止めんこと、無罪にしろ有罪にしろすべて不幸な人々を私が受けたこの苦悩から救わんこと、そう願うのはなぜか、何のためになるか、何の関係があるか。私の首が切れてしまった後で他の人々の首が切られることが私に何のかかわりがあるか。右のようなばかげたことを私は本当に考えうるのか。自分がそれにのぼった後で死刑台を打ち倒す! それがいったい私に何をもたらしてくれるものか。
そうだ、太陽、春、花の咲き満ちた野、早朝目覚むる小鳥、雲、樹木、自然、自由、生命、すべてそれらはもう私のものではない。
ああ、私自身をこそ救わなければならないのだ。――それができないというのは、明日にもあるいはおそらく今日にも死ななければならないというのは、そうしたものだというのは、まさしく本当なのか。おお、それ
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