ニりもどし、北東の風でタンプル大通り一帯にさっと広がる、その屍《しかばね》の臭気をとりもどすがいい。パリの死刑執行人のあの大きな小屋を、同じ強さと不朽の形のままで、とりもどすがいい。よきかな! それこそ大いなる実例である。よく腑に落ちる死刑である。多少規模のある刑罰様式である。それこそ嫌悪すべきものである。が、しかし怖るべきものである。
 あるいはまた、イギリスのようにするがいい。商業国たるイギリスでは、ドーヴァーの海岸で密輸入者を一人捕えると、それを実例として[#「実例として」に傍点]首吊りにし、実例として[#「実例として」に傍点]首吊台にさらしておく。しかし天気の不順のために死体がいたむことがあるので、瀝青《れきせい》を塗った布で死体を注意深く包んで、たびたび手入れをしないでよいようにする。倹約の国なるかな、首を吊られた死体に瀝青を塗るとは!
 けれどもそれはまだ多少理屈に合う。実例論に対するもっとも人情的な理解のしかたである。
 しかし諸君は郭外の大通りのもっとも寂しい片隅で一人の憐れな男の首をみじめにも断ち切る時、一つの実例を示すものだとまじめに考えているのか。グレーヴの刑場で
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