ュに探し求める習慣をもってはいない。著者が本書を思いついたのは、誰でもみなが思いつきうるところ、誰でもおそらく思いついたろうところ(というのは、死刑囚最後の日[#「死刑囚最後の日」に傍点]を頭のなかで考えるか想像するかしなかった者があろうか)、ただ単に公けの広場、グレーヴの刑場においてである。ある日そこを通りながら著者は、断頭台のまっかな木組の下の血の溜りのなかに横たわってるこの避けがたい観念を拾いあげたのである。
それからというもの、最高法院の悲しむべき木曜日のなりゆきにしたがって、死刑決定の叫びがパリの中におこる日がくるたびごとに、グレーヴの刑場に見物人を呼び集める嗄《しわが》れたわめき声が窓の下を通ってゆくのを聞くたびごとに、著者は右の痛ましい観念に再会して、それにとらえられ、憲兵や死刑執行人や群集などのことが頭にいっぱいになり、死にのぞんでいるみじめな男の最期の苦悶を刻々に見る気がし――ただいま彼は懺悔《ざんげ》をさせられてる、ただいま彼は両手を縛られてる――そしてただ一介の詩人たる著者は、そういう恐ろしいことが行なわれているのに平然と自分の仕事をしている全社会にむかって、す
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