ヘ免、赦免、私はおそらく赦免されるかもしれない。国王は私に悪意をいだいてはいない。私の弁護士をさがしてきてほしい。はやく、弁護士を! 私は徒刑を望む。五年の徒刑、それだけにしてほしい――あるいは二十年――あるいは鉄の烙印《らくいん》の終身でも。ただ生命《いのち》だけは助けてくれ!
 徒刑囚は、それはまだ歩くし、往ったり来たりするし、太陽の光を見る。

       三〇

 司祭がまたやってきた。
 彼は白髪で、ごく穏和な様子で、善良な尊い顔をしている。まったく立派な慈悲深い人だ。けさ私は彼が財布をはたいて囚人らに恵むのを見た。けれどもどうしたわけか、彼の声には何も人を感動させるようなところがなく、また自ら感動してるようなところもない。どうしたわけか、私の精神を動かしたり心を動かしたりするようなことを、彼はまだなにひとつ私に言ってくれなかった。
 けさは私は茫然としていた。彼が何を言ってるかもよく聞き取らなかった。でも彼の言葉などは何の役にも立たないような気がして、無関心な態度でいた。この冷たい窓ガラスの上のこの寒い雨のように、彼の言葉はただ滑り落ちていったのだった。
 それでも、先刻彼が戻ってきた時、私はうれしい気がした。これらの人々のうちで、この人だけが私にとってはまだ人間である、と私は思った。そして親切な慰安の言葉をせつに求める気持がおこった。
 私たちは腰をかけた、彼は椅子に、私は寝台に。彼は私にやさしく「あなた……」と言った。その言葉は私の心を開いてくれた。彼は言いつづけた。
「あなた、神を信じますか。」
「はい。」と私は答えた。
「あなたは、使徒の旨を体したローマの聖《きよ》いカトリックの教会を信じますか。」
「もちろんです。」と私は言った。
「あなた、」と彼は言った、「疑っているようです。」
 そして彼は話しはじめた。長いあいだ話した。たくさんの言葉を言った。それから、心ゆくばかり言ってしまうと、立ちあがって、話をしはじめてからようやくはじめて私の顔を見ながら、私にたずねかけた。
「どうです?」
 私は実際のところ、はじめはむさぼるように、次には注意深く、次には心をこめて、彼の言葉に耳をかたむけてたのだった。
 私も彼とともに立ちあがった。
「どうか、」と私は答えた、「私を一人きりにしておいてください、お願いです。」
 彼はたずねた。
「いつ戻ってきた
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