B司祭さんあなたは知っていますか。私よりくわしいんですか。聞かしてください、どうか。どういうことですか。――まったく、私は新しい話が好きです。それを裁判長殿に話してきかせるんです。すると、面白がりますよ。」
 そして彼はやたらに言葉を費やした。司祭と私のほうへかわるがわるふりむいた。私はただ肩をそびやかすだけで返事をしなかった。
「ねえ、何をいったい考えてるんですか。」と彼は私に言った。
「もう今晩は考えなくなるだろうということを考えています。」と私は答えた。
「ああ、そのことですか。」と彼は答え返した。「どうも、あなたはあまり沈んでいますね。カスタン氏は話をしていましたよ。」
 それから、ちょっと口をつぐんだ後彼はまた言った。
「私はパパヴォアーヌ氏をも同道しました。パパヴォアーヌ氏はかわうその皮の帽子をかぶって、葉巻をくゆらしていました。ラ・ロシェルの若い人たちのほうは、仲間同士にしか口をききませんでした。でもとにかく口をきいていましたよ。」
 彼はまたちょっと間をおいて、それから言いつづけた。
「あの人たちは狂人ですね、熱狂家ですね。世間じゅうの者をみな軽蔑してるようなふうでしたよ。あなたのほうはどうかっていえば、まったく考えこんでいますね、若いのに。」
「若い!」と私は彼に言った。「あなたよりも年とっています。四半時間ほどたつごとに一年ほど年をとるんですから。」
 彼はふりむいて、愚かな驚きのふうでしばらく私を眺めた。それから重々しい冷笑の調子をとった。
「御冗談でしょう、私より年とってるなんて! 私はあなたのおじいさんともいえるほどですがね。」
「私は冗談を言ってるんじゃありません。」とまじめに私は答えた。
 彼は嗅ぎたばこ入れを開いた。
「ねえ気を悪くしちゃいけませんよ。まあ一服なすって、私を悪く思わないでください。」
「お気づかいにはおよびません。悪く思おうとしても、もう長いことではないでしょうから。」
 その時、彼が私にさし出してるたばこ入れは間をへだてている金網にあたった。それも、馬車の動揺のためにかなり激しくぶつかって、開いたまま憲兵の足の下に落ちた。
「金網のやつめ!」と執達吏は叫んだ。
 彼は私のほうへ向いた。
「これはどうも、困りました。たばこをすっかりなくして!」
「あなたよりもっと多くのものを私はなくしています。」とほほえみながら私は答
前へ 次へ
全86ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング