驍謔、に耳をすませた。それはゆるやかな弱々しい節《ふし》で、悲しい哀れっぽい一種のさえずりで、文句はつぎのとおりだった。――〔[#ここから割り注]次の唄の言葉は隠語交りであるが、そのまま日本の隠語交りに翻訳することは至難であるから、だいたい普通の言葉に訳出する。しかし隠語交りの唄であることを頭において読んでいただきたい。[#ここで割り注終わり]〕

[#ここから2字下げ]
マイユ街にて
俺は捕えられた、
    マリュレ、
三人の憲兵に、
  リルロンファ・マリュレット、
おっ伏せられた、
  リルロンファ・マリュレ。
[#ここで字下げ終わり]

 私の失望がどんなに苦々しいものであったか、言葉にはつくされない。歌声はなおつづいた。

[#ここから2字下げ]
おっ伏せられた、
    マリュレ。
手錠もらった、
  リルロンファ・マリュレット。
刑事がやってきた、
  リルロンファ・マリュレ。
途中で出会った、
  リルロンファ・マリュレット、
町内のどろぼう、
  リルロンファ・マリュレ。

町内のどろぼう、
    マリュレ。
――行って女房に言っとくれ、
  リルロンファ・マリュレット、
俺は上げられちまったと、
  リルロンファ・マリュレ。
女房は腹立ち、
  リルロンファ・マリュレット。
俺に言う、何をしたんだ?
  リルロンファ・マリュレ。

俺に言う、何をしたんだ?
    マリュレ。
――俺はばらした、一人の野郎を、
  リルロンファ・マリュレット、
剥《は》いでやった、そいつの金を、
  リルロンファ・マリュレ。
そいつの金と時計とを、
  リルロンファ・マリュレット、
それから靴の留金を、
  リルロンファ・マリュレ。

それから靴の留金を、
    マリュレ。――
女房は出かける、ヴェルサイユ、
  リルロンファ・マリュレット、
国王陛下の足もとに、
  リルロンファ・マリュレ。
請願一つたてまつる、
  リルロンファ・マリュレット、
俺を放免してもらおうと、
  リルロンファ・マリュレ。

俺を放免してもらおうと、
    マリュレ。
――ああそれで放免されたなら、
  リルロンファ・マリュレット、
女房を飾ってやろうもの、
  リルロンファ・マリュレ。
つけさせようよ、蝶々リボン、
  リルロンファ・マリュレット、
靴には革のほこりよけ、

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