トくれた。なに、好奇心からだ。それにまた、病いをなおすそれらの人々は、発熱を回復させることはできるが、死の宣告を回復させることはできない。とはいえ、それは彼らにいとたやすいことだったろう。戸を一つ開くだけだ。それが彼らにとって何であろう。
今はもう何の機会もない。破毀院は私の上告を却下するだろう、万事が規定どおりになされているから。証人らは立派に証言したし、弁論人らは立派に弁論したし、判事らは立派に裁判した。私は物の数にはいらない。ただせめて……。いや。ばかげたことだ。もう望みはない。上告などというものは、深淵の上に人をぶらさげるひとすじの縄であって、切れるまでは絶えずみりみりいう音が聞こえる。あたかも断頭台の刃が落ちるのに六週間かかるかのようである。
もし赦免を得たら? ――いや、赦免を、いったい誰から、何のわけで、どうして? 私が赦免されるようなことがあるものか。彼らが言うとおりに、私は実例なのだ!
私はもう三度足をはこぶだけのことだ。ビセートルの監獄、コンシエルジュリーの監獄、グレーヴの刑場。
一六
病室でわずかな時間をすごしたとき、私は窓のそばに座って、日の光に――日の光がまた射してきたのだった――あたっていたことがある。あるいは少なくとも、窓の鉄格子がもらしてくれる日光を受けていたことがある。
私はそこで、重い燃えるような頭を、支えかねる両手でかろうじて支え、両|肱《ひじ》を膝につき、両足先を椅子の桟《さん》にかけていた。というのも、喪心の極、四肢には骨がなくなり肉には筋肉がなくなったかのように、かがみこみ折れまがってしまったのだ。
私は監獄のよどんだ臭いにいつもよりひどく息苦しさを覚え、耳にはなお徒刑囚らの鎖の音が残っており、ビセートル全体の大きなものうさを感じていた。そしてもし善良な神があったら、私を憐れんでくれて、せめて一羽の小鳥でも私に送って、そこで、正面のところで、屋根のへりで、さえずらせてくれるはずだが、というように思われた。
その私の願いをききとどけてくれたのは、はたして善良な神だか悪魔だかわからないが、ほとんどその時すぐに、窓の下に、一つの声がおこってくるのが聞こえた。小鳥の声ではなかったが、もっとよいもので、十五、六歳の小娘の清い爽やかな柔かな声だった。私は飛びたつように頭をあげて、彼女が歌ってる唄にむさぼ
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