フ寝台に対して私は不快さとなさけなさのため、たじろいだろう。しかし私はもう以前と同じ人間ではなかった。おおい布は灰色で手ざわりが粗く、毛布は貧弱で穴があいており、ふとん越しに下の藁ぶとんが感じられはしたが、それでも、そのひどいおおい布のあいだに、私の手足は自由にくつろぐことができ、どんなに薄かろうとその毛布の下に、私がいつも覚えるあの骨の髄の恐ろしい寒さはしだいに消えてゆくのが感じられた。――私はまた眠った。
 ひどい物音に私はまた目を覚ました。夜が明けかかっていた。物音は外から聞こえていた。私の寝台は窓のそばにあった。私は体をおこして、なにごとかと眺めた。
 窓はビセートルの大きい中庭に面していた。その中庭は人でいっぱいだった。二列に立ちならんでいる老兵らが、その人ごみのまんなかに、中庭を横ぎって、狭い通路をかろうじてあけていた。その兵士の二重の列のあいだに、人を積んだ長い荷馬車が五つ、敷石の一つ一つに揺らめきながら徐々に進んでいた。徒刑囚らが出かけるのだった。
 それらの荷馬車には何の覆いもなかった。一連の徒刑囚がそれぞれ一台に乗っていた。彼らは馬車の両側に横向きに腰かけ、互いに背中合わせになり、その間に共同の鎖が置かれていた。鎖は馬車の長さだけに伸び、その先端に一人の監視が、装填《そうてん》した銃を持って徒歩で控えていた。徒刑囚らの鉄具の音が聞こえ、また馬車の動揺ごとに、彼らの頭がとびあがり彼らの足がふらつくのが見えた。
 こまかなしみ通るような雨のために、空気は冷えきっていた。そして彼らの膝に、麻のズボンは灰色のが黒くなってこびりついていた。彼らの長いひげや短い髪には、雨水がしたたっていた。彼らの顔は紫色になっていた。彼らがうち震えて憤激と寒さとに歯ぎしりしているのが、見てとられた。そのうえ、彼らは身を動かすこともできなかった。その鎖に一度鋲締めされると、一人の者のように動く綱という醜悪な全体の一部分にすぎなくなる。知能も身を退かなければならない。徒刑場の首枷は人の知能を死刑に処する。そして動物的な半面でさえも、一定の時にしか尿意や食欲を起こしてはいけなくなる。そういうふうに彼らは身動きもできず、多くはなかば裸で帽子もかぶらず足をぶらさげて、二十五日間の旅にのぼるのだった。同じ荷馬車に積まれ、七月の太陽の直射にも十一月の冷たい雨にも、同じ服を着せられるのだ。
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