アとである。が、血を流すことをやめさせるのはさらによいことであろう。
それゆえ著者はもっとも高い神聖な荘厳な目標をめざしたい。すなわち、死刑の廃止に協力すること。それゆえ著者は、もろもろの革命がまだ引き抜いていない唯一の柱たる死刑台の柱を打ち倒すことに数年来つとめている、各国の殊勝な人々の希願と努力とに、心底から左袒《さたん》する。そして弱小な者ではあるが、喜んで自ら斧《おの》の一撃を加えて、多くの世紀をさかのぼる昔からキリスト教諸国の上につっ立っている古い磔刑《たっけい》台に、六十年前ベッカリアが与えた切り口を、力のおよぶかぎり大きくしたいのである。
今言ったとおり、死刑台はもろもろの革命から転覆されていない唯一の建物である。実際、革命はめったに人間の血を惜しまない。社会の葉を刈り、枝を刈り、頭を刈るために到来した革命にとっては、死刑はもっとも手放しにくい鉈《なた》の一つである。
それでもうちあけて言えば、死刑を廃止するにふさわしくそれができそうに見えた革命があるとすれば、それは七月革命であった。まったく、ルイ十一世やリシュリューやロベスピエールなどの野蛮な刑罰を除き、人間の生命の不可侵性を法律の額に記入することは、近代のもっとも寛仁な民衆運動たるこの革命の仕事であるようだった。一八三〇年は一七九三年の肉切り庖丁を折り捨てるにふさわしかった。
われわれは一時そのことに望みをかけた。一八三〇年八月には、多くの寛仁と憐憫とが空中に浮かんでおり、穏和と文明との強い精神が衆人のうちに漂っており、美しい未来が近づいてくる輝かしい心地を人に深く感じさせたので、われわれのじゃまとなっていた他のあらゆる悪事と同様に死刑も、暗々裡の衆人一致の合意で正当に一挙に廃止されるもののように、われわれには思われた。民衆は旧制度のあらゆる古着を燃やして祝い火としていた。そしてこんどのは血ににじんだ古着だった。われわれはそれが多くの古着の積み重なっているなかにあると思った。他のものと同様に燃やされたのだと思った。そして数週間のあいだ、信頼しやすく信じやすいわれわれは、自由の不可侵性とともに生命の不可侵性が未来に対して確保されたものと思った。
はたして二か月とたたないうちに、セザール・ボヌザナの崇高な理想を実際法律上に解決せんがために、一つの試みがなされた。
不幸にもその試みは、粗悪で
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