の人に向かってこう言わないではおられなかった。
「牧師様をお呼びしましょうか。」
「牧師様はひとりおられる。」ジャン・ヴァルジャンは答えた。
 そして彼は指で、頭の上の一点を指し示すようなふうをした。おそらく彼の目には、そこに何者かの姿を見ていたのであろう。
 実際ミリエル司教がその臨終に立ち会っていられたかも知れない。
 コゼットは静かに彼の腰の下に枕をさし入れた。
 ジャン・ヴァルジャンはまた言った。
「ポンメルシーさん、どうか気使わないで下さい。あの六十万フランはまさしくコゼットのものです。もしあなたがあれを使われなければ、私の生涯はむだになってしまうでしょう。私どもはそのガラス玉製造に成功したのでした。ベルリン玉と言われてるのと対抗しました。ドイツの黒玉も到底かないはしません。ごくよくできた玉の千二百もはいってる大包みが、わずかに三フランしかしないのです。」
 大事な人がまさに死なんとする時には、人はその人にしがみついて引き止めようとする目つきで、それを見つめるものである。ふたりとも、心痛の余り黙然として、死に対して何と言うべきかを知らず、絶望し身を震わしながら、コゼットの方は
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