むしろその声の音楽を聞いていた。魂の沈痛な真珠である大きな涙の一滴が、しだいに彼の目の中に宿ってきた。彼はつぶやいた。
「彼女がきてくれたことは、神が親切であらるる証拠だ。」
「お父様!」とコゼットは言った。
 ジャン・ヴァルジャンは続けて言った。
「いっしょに住むのは楽しいことに違いない。木には小鳥がいっぱいいる。私はコゼットと共に散歩する。毎日あいさつをかわし、庭で呼び合う、いきいきした人たちの仲間にはいる、それは快いことだろう。朝から互いに顔を合わせる。めいめい庭の片すみを耕す、彼女はその苺《いちご》を私に食べさせ、私は自分の薔薇《ばら》を彼女につんでやる。楽しいことだろう。ただ……。」
 彼は言葉をとぎらして、静かに言った。
「残念なことだ。」
 涙は落ちずに、元へ戻ってしまった。ジャン・ヴァルジャンは涙を流す代わりにほほえんだ。
 コゼットは老人の両手を自分の両手に取った。
「まあ!」と彼女は言った、「お手が前よりいっそう冷たくなっています。御病気ですか。どこかお苦しくって?」
「私? いや、」とジャン・ヴァルジャンは答えた、「私は病気ではない。ただ……。」
 彼は言いやめた
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