済んでしまった、永久に。私はこのとおりただひとりである。ああ、私はもう彼女に会えないだろう。」
その時だれか扉《とびら》をたたく者があった。
四 物を白くするのみなる墨壺《すみつぼ》
ちょうどその時、なおよく言えばその同じ夕方、マリユスが食卓を離れ、訴訟記録を調べる用があって、自分の事務室に退いた時、バスクが一通の手紙を持ってきて言った。「この手紙の本人が控え室にきております。」
コゼットは祖父の腕を取って、庭を一回りしていた。
手紙にも人間と同じく、気味の悪いものがある。粗末な紙、荒い皺《しわ》、一目見ただけでも不快の気を起こさせるものがある。バスクが持ってきた手紙はそういう種類のものだった。
マリユスはそれを手に取った。煙草《たばこ》のにおいがしていた。およそにおいほど記憶を呼び起こさせるものはない。マリユスはその煙草のにおいに覚えがあった。彼は表をながめた。「御邸宅にて[#「御邸宅にて」に傍点]、ポンメルシー男爵閣下[#「ポンメルシー男爵閣下」に傍点]。」煙草のにおいに覚えがあるために、彼は手跡にも覚えがあることがわかった。驚きの情にも電光があると言っても
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