うふうにして、ジャン・ヴァルジャンは長く留まることができた。コゼットをながめそのそばですべてを忘れることは、彼にとってはいかに楽しいことであったろう。それは自分の傷口を結わえることだった。バスクが二度もきて、「食事の用意ができたことを奥様に申し上げてこいと、大旦那様《おおだんなさま》が仰せられました、」と告げるようなことも、幾度かあった。
 そういう日ジャン・ヴァルジャンは、深く思いに沈みながら戻っていった。
 マリユスの頭に浮かんだあの脱殻のたとえには、何か真実な点が含まっていたであろうか。ジャン・ヴァルジャンは果たして一つの脱殻であって、自分から出た蝶《ちょう》を執拗《しつよう》に訪れて来る身であったろうか。
 ある日、彼はいつもより長座をした。するとその翌日は暖炉に火がはいっていなかった。「おや、火がない、」と彼は考えた。そして自らその説明を下した。「なに当然のことだ。もう四月だ。寒さは済んでしまったのだ。」
「まあ、寒いこと!」とコゼットははいってきながら叫んだ。
「寒くはありません。」とジャン・ヴァルジャンは言った。
「では、バスクに火を焚《た》くなとおっしゃったのはあなたで
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