しい態度で、低い室の扉《とびら》を開いて、そして言った。「ただ今奥様に申し上げます。」
ジャン・ヴァルジャンが通されたのは、丸天井のついたじめじめした階下の室で、時々物置きに使われ、街路に面し、赤い板瓦が舗《し》いてあり、鉄格子《てつごうし》のついた窓が一つあるきりで、中は薄暗かった。
それははたきやブラシや箒《ほうき》でいじめられる室《へや》ではなかった。ほこりは静かに休らっていた。蜘蛛《くも》は何らの迫害も受けないでいた。りっぱな蜘蛛の巣が一つ、まっ黒に大きくひろげられ蠅の死体で飾られて、窓ガラスの上に車輪のようにかかっていた。室は狭くて天井も低く、一隅には空罎《あきびん》が積まれていた。石黄色の胡粉《ごふん》で塗られた壁は、所々大きく剥落《はくらく》していた。奥の方に黒塗りの木の暖炉が一つあって、狭い棚《たな》がついていた。中には火が燃えていた。それは「階下にしよう[#「階下にしよう」に傍点]」というジャン・ヴァルジャンの返事が既に予期されてたことを、明らかに示すものだった。
二つの肱掛《ひじか》け椅子《いす》が暖炉の両すみに置かれていた。椅子の間には、毛よりも糸目の方がよ
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