なかった。それは彼が自ら言ったことである。そして彼は今通りすぎようとしていた。彼がいかなる者であったにせよ、その役目はもう終わっていた。今後コゼットのそばで保護者の役目をする者はマリユスとなっていた。コゼットは蒼天《そうてん》のうちに、自分と似寄った者を、恋人を、夫《おっと》を、天国における男性を、見いだしたのである。翼を得姿を変えたコゼットは、空虚な醜い脱殻たるジャン・ヴァルジャンを、地上に残してきたのだった。
 かくてマリユスは種々考え回したが、いつも終わりには、ジャン・ヴァルジャンに対する一種の恐怖に落ちていった。おそらくそれは聖なる恐怖であったろう。なぜなら彼は、その男のうちに天意的なもの[#「天意的なもの」に傍点]を感じていたからである。けれどもとにかく、いかに考えてみても、またいかに事情を酌《く》んでやっても、常にこういう結論に落ちゆかざるを得なかった。すなわち、彼は徒刑囚である。換言すれば、社会の最も下の階段よりも更に下にいて、自分の立つべき階段を有しない者である。最下等の人間の次が、徒刑囚である。徒刑囚は言わば生きた人間の仲間にはいる者ではない。徒刑囚は法律から、およそ
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