生育、それらは皆この不思議な献身によってまもられていたのである。ここに問題は、言わば数限りない謎《なぞ》に分かれ、深淵《しんえん》の下に更に深淵が開けてきて、マリユスはもはや眩暈《げんうん》を感ぜずにはジャン・ヴァルジャンの方をのぞき込むことができなかった。その深淵のごとき男はそもそも何者であったろうか。
創世紀の古い比喩《ひゆ》は永久に真なるものである。現在のごとき人間の社会には、将来大なる光によって変化されない限り、常に二種の人間が存在する。一つは高きにある者であり、一つは地下にある者である。一つは善に従う者、すなわちアベルであり、一つは悪に従うもの、すなわちカインである。しかるに今、このやさしい心のカインは、そもそもいかなるものであったろうか。処女に対して、敬虔な心を傾けて愛し、彼女を監視し、彼女を育て、彼女をまもり、彼女を敬い、自ら不潔の身でありながら、純潔をもって彼女をおおい包むこの盗賊は、そもそもいかなるものであったろうか。無垢《むく》なる者を尊んで、それに一つの汚点をもつけさせなかったこの汚泥《おでい》は、そもそもいかなるものであったろうか。コゼットを教育したこのジャン
前へ
次へ
全618ページ中504ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング