、彼ひとりだけが感ずる多くの出血。彼の痛ましい生が受くる多くの擦《す》り傷。血にまみれ、傷におおわれ、身を砕かれ、光に照らされ、心に絶望の念をいだき、魂に清朗の気をたたえて、彼がまた起き上がったのも、幾度であったろう。敗者でありながら彼は勝者のように感じていた。そして彼の本心は、彼を挫《くじ》き苦しめ打ち折った後、恐ろしい煌々《こうこう》たる落ち着いた姿をして彼の上につっ立ち、彼に言った、「今は平和に歩くがいい!」
しかし、かく陰惨な争闘から出てきた後では、それもいかに悲しい平和であったことか!
けれどもその晩ジャン・ヴァルジャンは、最後の戦いをしてるような心地になった。
痛切な一つの問題が現われていた。
定められた運命はまっすぐなものではない。それは当の人間の前にまっすぐな大道となって開けゆくものではない。行き止まりもあり、袋庭もあり、まっくらな曲がり角《かど》もあり、多くの道が交錯してる不安な四《よ》つ辻《つじ》もある。ジャン・ヴァルジャンは今、それらの四つ辻のうち最も危険なものに立ち止まっていた。
彼は善と悪との最後の交差点に到達していた。その暗黒な接合点を眼前に見てい
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