いす》には、一つにジルノルマン氏がすわり、一つにジャン・ヴァルジャンがすわることになっていた。ジルノルマン氏は席についた。しかしも一つの肱掛《ひじか》け椅子《いす》にはだれもいなかった。
人々は「フォーシュルヴァン氏」の姿を見回した。
彼はもうそこにいなかった。
ジルノルマン氏はバスクに声をかけた。
「フォーシュルヴァンさんはどこにおらるるか知っていないか。」
「はい存じております。」とバスクは答えた。「フォーシュルヴァン様は、お手の傷が少し痛まれて、男爵お二方と会食ができないから、旦那様《だんなさま》によろしく申し上げてほしいと私にお伝えでございました。そして今晩は御免を被って、明朝来るからと申されて、ただ今お帰りになりました。」
その空《から》の肱掛け椅子のために、婚礼の宴は一時|白《しら》けた。しかしフォーシュルヴァン氏は不在でも、ジルノルマン氏がそこにいて、ふたり分にぎやかにしていた。もし傷が痛むようならフォーシュルヴァン氏は早くから床につかれた方がよいが、しかしそれもちょっとしたいたいた[#「いたいた」に傍点]に過ぎない、と彼は断言した。そしてその言葉でもう充分だった
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