る男を押さえた。警官の命令で、御者は「その人たち」を馬車に乗せた。最初フィーユ・デュ・カルヴェール街へ行った。死んでる男はそこでおろされた。その死んでる男というのはマリユス氏であった。「こんどは」生きていたけれども、御者は確かに見覚えていた。それからふたりはまた彼の馬車に乗った。彼は馬に鞭《むち》をあてた。古文書館の門から数歩の所で、止まれと声をかけられた。その街路で彼は金をもらって返された。警官はもひとりの男をどこかへ連れて行った。それ以上のことは少しも知らない。その晩は非常に暗かった。
 前に言ったとおり、マリユスは何にも覚えていなかった。防寨《ぼうさい》の中であおむけに倒れかかる時背後から力強い手でとらえられたことだけを、ようやく思い出した。それから何にもわからなくなった。意識を回復したのはジルノルマン氏の家においてだった。
 彼は推測に迷った。
 御者の言う男が彼自身であることは疑いなかった。けれども、シャンヴルリー街で倒れてアンヴァリード橋近くのセーヌ川の汀《みぎわ》で警官から拾い上げられたとは、どうしたのであったろうか。だれかが彼を市場町からシャン・ゼリゼーまで運んでくれた
前へ 次へ
全618ページ中397ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング