ことについては互いに一言も交じえない。そういう事実は案外たくさん世にあるものである。
ただ一度、マリユスは探りを入れてみたことがあった。彼は会話の中にシャンヴルリー街のことを持ち出して、フォーシュルヴァン氏の方へ向きながら言った。
「あなたはあの街路《まち》をよく御存じでしょうね。」
「どの街路ですか。」
「シャンヴルリー街です。」
「そういう名前については別に何の考えも浮かびませんが。」とフォーシュルヴァン氏は最も自然らしい調子で答えた。
答えは街路の名前についてであって、街路そのものについてではなかったが、それでもマリユスはよく了解できるような気がした。
「まさしく自分は夢をみたのだ。」とマリユスは考えた。「幻覚を起こしたのだ。だれか似た者がいたのだろう。フォーシュルヴァン氏はあすこにいたのではない。」
八 行方《ゆくえ》不明のふたりの男
歓喜の情はきわめて大きかったけれども、マリユスの他の気がかりを全然消すことはできなかった。
結婚の準備が整えられてる間に、定まった日を待ちながら、彼は人を使って困難な既往の穿鑿《せんさく》を細密になさした。
彼は諸方面に恩
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