ーシュルヴァン氏には普通の人よりも、何かが足りなくまた何かが多すぎていた。
マリユスは頭の奥でひそかに、自分に向かっては単に親切で冷然たるのみのフォーシュルヴァン氏に対して、あらゆる疑問をかけてみた。時とすると、自分の思い出にさえ疑いをかけてみた。彼の記憶には、一つの穴、暗い一点、四カ月間の瀕死《ひんし》の苦しみによって掘られた深淵《しんえん》が、できていた。多くのことがその中に落ち込んでいた。そのために、かくまじめな落ち着いた人物であるフォーシュルヴァン氏を防寨《ぼうさい》の中で見たというのは、果たして事実だったろうかと自ら疑ってみた。
もとより、過去の明滅する幻が彼の脳裏に残したものは、単なる惘然《ぼうぜん》さのみではなかった。幸福中にもまた満足中にも人をして沈鬱《ちんうつ》に後方をふり返り見させる記憶の纒綿《てんめん》から、彼が免れていたと思ってはいけない。消えうせた地平線の方をふり返り見ない頭には、思想もなければ愛もないものである。時々マリユスは両手で頭をおおった。そして騒然たるおぼろな過去が、彼の脳裏の薄ら明りの中を過《よ》ぎっていった。彼はマブーフが倒れる所を再び見、霰
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