」
だれも動く者はなかった。
「結婚した者および一家の支柱たる者は、列外に出たまえ!」とマリユスは繰り返した。
彼の権威は偉大なものだった。アンジョーラはもとより防寨《ぼうさい》の首領であったが、マリユスは防寨の救済主であった。
「僕はそれを命ずる!」とアンジョーラは叫んだ。
「僕は諸君に願う!」とマリユスは言った。
その時、コンブフェールの言葉に動かされ、アンジョーラの命令に揺られ、マリユスの懇願に感動されて、勇士らは、互いに指摘し始めた。「もっともだ。君は一家の主人じゃねえか。出るがいい。」とひとりの若者は壮年の男に言った。男は答えた。「むしろお前の方だ。お前はふたりの妹を養ってゆかなくちゃならねえんだろう。」そして異様な争いが起こった。互いに墳墓の口から出されまいとする争いだった。
「早くしなけりゃいけない。」とコンブフェールは言った。「もう十五、六分もすれば間《ま》に合わなくなるんだ。」
「諸君、」とアンジョーラは言った、「ここは共和である、万人が投票権を持っている。諸君は自ら去るべき者を選むがいい。」
彼らはその言葉に従った。数分の後、五人の男が全員一致をもって指名さ
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