持って象牙の塔[#「象牙の塔」に傍点]([#ここから割り注]聖母マリア[#ここで割り注終わり])を歌うよりも、よほど勝《まさ》っている。」
 祖父は九十歳の踵《かかと》でくるりと回って、発条《ばね》がとけるような具合に言い出した。
[#ここから2字下げ]
「かくてアルシペよ、夢想に限界《かぎり》を定めて、
やがて汝《な》が婚姻するは、まことなるか。
[#ここで字下げ終わり]
時にね。」
「何です、お父さん。」
「お前には親しい友だちがあったか。」
「ええ、クールフェーラックという者です。」
「今どうしてる?」
「死んでいます。」
「それでいい。」
 彼はふたりのそばに腰を掛け、コゼットにも腰掛けさし、彼らの四つの手を自分の年老いた皺《しわ》のある手に取った。
「実にりっぱな娘さんだ。このコゼットはまったく傑作だ。小娘でまた貴婦人だ。男爵夫人には惜しい。生まれながらの侯爵夫人だ。睫毛《まつげ》もりっぱだ。いいかね、お前たちは本当の道を踏んでるということをよく頭に入れとかなくてはいかん。互いに愛し合うんだ。愛してばかになるんだ。愛というものは、人間の愚蒙《ぐもう》で神の知恵だ。互いに慕い合
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