だ。
 コゼットは、酔い、喜び、おびえ、天に上ったような心地になっていた。彼女はおよそ幸福が与え得るだけの恐怖を感じていた。彼女は口ごもり、まっさおになり、またまっかになり、マリユスの腕に身を投じたく思いながらあえてなし得なかった。大勢の人前で愛するのをはずかしがったのである。人は幸福なる恋人らに対して無慈悲である。彼らが最もふたりきりでいたく思う時にはそこに控えている。しかしふたりはまったく他人を必要としないのである。
 コゼットと共に、白髪の老人がひとりそのあとからはいってきた。彼は荘重な顔つきをしていたが、それでもほほえんでいた。しかしそれはぼんやりした痛ましい微笑だった。この老人は「フォーシュルヴァン氏」で、すなわちジャン・ヴァルジャンであった。
 彼は新しい黒服をまとい白い襟飾《えりかざ》りをつけて、門番が言ったとおりごくりっぱな服装[#「ごくりっぱな服装」に傍点]をしていた。
 公証人ででもありそうなそのきちょうめんな市民が、あの六月七日の夜、気絶したマリユスを腕にかかえ、ぼろをまとい、不潔で醜く荒々しく、血と泥《どろ》とにまみれた顔をして、門の中にはいってきた恐ろしい死体
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