まっていた。どこへ、どの方面へ、どの茂みの中へか? それを察知することはまったくできなかった。
 しかも遺憾きわまることには、石の積んであるうしろに、亜鉛の張ってある木の前に、掘り返したばかりの新しい土があり、忘れられたか捨てられたかした鶴嘴《つるはし》が一つあり、また穴が一つあった。
 穴は空《から》だった。
「泥坊《どろぼう》め!」とブーラトリュエルは地平線に向かって両の拳《こぶし》を振り上げながら叫んだ。

     二 マリユス国内戦よりいでて家庭戦の準備をなす

 マリユスは長い間死んでるのか生きてるのかわからない状態にあった。数週間熱が続き、それに伴って意識の昏迷《こんめい》をきたし、また、傷そのものよりもむしろ頭部の傷の刺激から来るかなり危険な脳症の徴候を示していた。
 彼は最初のうち幾晩も、熱に浮かされた痛ましい饒舌《じょうぜつ》になり、妙に執拗《しつよう》な苦悩のうちに、コゼットの名を呼び続けた。二、三の大きな傷はことに危険なものだった。大きな傷口の膿《のう》は常に内部へ吸収されがちなもので、その結果、大気のある影響を受けて患者を殺すことがある。それで天気の変化するご
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