自分のなしてきた事柄に戦慄《せんりつ》した。彼ジャヴェルは、警察のあらゆる規則に反し、社会上および司法上の組織に反し、法典全部に反し、自らよしとして罪人を放免したのである。それは彼一個には至当であった。しかし彼は私事のために公務を犠牲にした。それは何とも名状し難いことではなかったか。自ら犯したその名義の立たない行為に顔を向けるたびごとに、彼は頭から足先までふるえ上がった。いかなる決心を取るべきであるか。今はただ一つの手段きり残っていなかった。急いでオンム・アルメ街に戻りジャン・ヴァルジャンを下獄させること、それこそ明らかに彼がなさなければならないことだった。しかし彼はなし得なかった。
何かがその方への道を彼にふさいでいた。
何物であるか? 何であるか? 法廷や執行文や警察や官憲などより他のものが、世にはあるのであろうか。ジャヴェルは当惑した。
神聖なる徒刑囚、法をもっても裁くことのできない囚人、しかもそれはジャヴェルにとって現実であった。
罰を与えるための人間であるジャヴェルと、罰を受くるための人間であるジャン・ヴァルジャンと、互いに法の中にあるそのふたりが、ふたりとも法を超越
前へ
次へ
全618ページ中313ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング