れが真実のものであったろうか。
彼の地位は名状し難いものであった。
悪人のおかげで生命を保ち、その負債を甘受してそれを償却し、心ならずも罪人と同等の位置に立ち、恩に対して他の恩を返すこと、「行け」と言われたのに対してこんどは「自由の身となれ」と言ってやること、私的な動機からして一般的責務を犠牲にし、しかもその私的な動機のうちにも、同じく一般的なまたおそらく更に優《すぐ》れた何かを感ずること、自分一個の本心に忠実なるため社会に裏切ること、それら種々の不合理が現実に現われてきて彼の上に積み重なったので、彼はなすところを知らなかった。
ジャヴェルを驚かした一事は、ジャン・ヴァルジャンが彼を赦《ゆる》したことであり、彼を茫然《ぼうぜん》自失せしめた一事は、彼自らがジャン・ヴァルジャンを赦したことであった。
彼はいかなる所に立っていたのか。彼はおのれをさがしたが、もはやおのれを見いだすことはできなかった。
今やいかになすべきであったか? ジャン・ヴァルジャンを引き渡すは悪いことであり、またジャン・ヴァルジャンを自由の身にさしておくのも悪いことだった。第一の場合においては、官憲の男が徒刑
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