、防寨からではないか、と問われる。そして手を見られる。火薬のにおいがする。そのまま銃殺だ。」
アンジョーラはそれに答えないで、コンブフェールの肩に触れ、ふたりで居酒屋の下の広間にはいって行った。
彼らはまたすぐそこから出てきた。アンジョーラは両手にいっぱい、取って置いた四着の軍服を持っていた。後に続いたコンブフェールは、皮帯と軍帽とを持っていた。
「この服をつけてゆけば、」とアンジョーラは言った、「兵士の間に交じって逃げることができる。りっぱに四人分ある。」
そして彼は、舗石《しきいし》をめくられた地面の上に四つの軍服を投げ出した。
堅忍なる聴衆のうちには身を動かす者もなかった。コンブフェールは語り出した。
「諸君、」と彼は言った。「憐憫《れんびん》の情を少し持たなければいけない。ここで何が問題であるか知っているか。問題は婦人の上にあるんだ。いいか。妻を持ってる者はないか。子供を持ってる者はないか。足で揺籃《ゆりかご》を動かしたくさんの子供に取り囲まれてる母親を持ってる者はないか。君らのうちで、かつて育ての親の乳房《ちぶさ》を見なかった者があるならば、手をあげてみたまえ。諸君は
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