鼻の方へつき出して、荒々しい夢想の様子だった。それから彼はジャン・ヴァルジャンを放し、すっくと身を伸ばし、棍棒《こんぼう》を充分手のうちに握りしめ、そして夢の中にでもいるように、次の問を発した、というよりむしろつぶやいた。
「君はここに何をしてるんだ、そしてその男は何者だ。」
 彼はもうジャン・ヴァルジャンをきさまと呼んではいなかった。
 ジャン・ヴァルジャンは答えたが、その声の響きにジャヴェルは始めて我に返った。
「私が君に話したいのもちょうどこの男のことだ。私の身は君の勝手にしてほしい。だがまずこの男をその自宅に運ぶのを手伝ってもらいたい。願いというのはそれだけだ。」
 ジャヴェルの顔は、人から譲歩を予期されてると思うたびごとにいつもするように、すっかり張りつめた。けれども彼は否とは言わなかった。
 彼は再び身をかがめ、ポケットからハンカチを引き出し、それを水に浸して、マリユスの血に染まってる額をぬぐった。
「防寨《ぼうさい》にいた男だな。」と彼は独語のように半ば口の中で言った。「マリユスと呼ばれていた者だ。」
 彼こそ実に一流の探偵《たんてい》というべきであって、やがて殺されるの
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