取り得なかった。彼は両腕を組んだまま、目につかないくらいの動作で棍棒《こんぼう》を握りしめてみて、それから簡明な落ち着いた声で言った。
「何者だ。」
「私だ。」
「いったいだれだ?」
「ジャン・ヴァルジャン。」
ジャヴェルは棍棒をくわえ、膝《ひざ》をまげ、身体を傾け、ジャン・ヴァルジャンの両肩を二つの万力ではさむように強い両手でとらえ、その顔をのぞき込み、そして始めてそれと知った。二人の顔はほとんど接するばかりになった。ジャヴェルの目つきは恐ろしかった。
ジャン・ヴァルジャンはあたかも山猫《やまねこ》の爪《つめ》を甘受してる獅子《しし》のように、ジャヴェルにつかまれたままじっとしていた。
「ジャヴェル警視、」と彼は言った、「私は君の手中にある。それに今朝《けさ》から、私はもう君に捕えられたものだと自分で思っていた。君からのがれるつもりならば、住所などを教えはしない。私を捕えるがいい。ただ一つのことを許してもらいたい。」
ジャヴェルはその言葉を聞いてるようにも思われなかった。彼はジャン・ヴァルジャンの上にじっと瞳《ひとみ》を据えていた。頤《あご》に皺《しわ》を寄せ、脣《くちびる》を
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