、そしてやはりまっすぐに進み続けていた時に、傾斜を上っているのでないことに気づいた。水の流れは、爪先《つまさき》からこないで、踵《かかと》の方に当たっていた。下水道は今下り坂になっていた。どうしたわけだろう。さてはにわかにセーヌ川に出るのであろうか。セーヌ川に出るのは大なる危険であったが、しかし引き返すの危険は更に大きかった。彼は続けて前に進んだ。
 しかし彼が進みつつあったのはセーヌ川の方へではなかった。セーヌ右岸にあるパリーの土地の高脈は、一方の水をセーヌ川に注ぎ他方の水を大溝渠《だいこうきょ》に注いでいる。分水嶺《ぶんすいれい》をなすその高脈は、きわめて不規則な線をなしている。排水を両方に分つ最高点は、サント・アヴォア下水道ではミシェル・ル・コント街の彼方《かなた》にあり、ルーヴルの下水道では大通りの近くにあり、モンマルトルの下水道では市場町の近くにある。ジャン・ヴァルジャンが到着したのは、その最高点であった。彼は囲繞溝渠《いじょうこうきょ》の方へ進んでいた。道筋はまちがっていなかった。しかし彼はそれを少しも自ら知らなかった。
 枝道に出会うたびごとに、彼はその角《かど》に一々さ
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