下までしみ通るのを覚えた。けれども、負傷者の口元に接している耳に湿気のある温味が感ぜられるのは、呼吸のしるしで、従ってまた生命のしるしだった。今や彼がたどっている隧道は、初めのより広くなっていた。彼はかなり骨を折ってそれを歩いていった。前日の雨水はまだまったく流れ去っていず、底の中ほどに小さな急流を作っていたので、彼は水の中に足をふみ入れないようにするため、壁に身を寄せて行かなければならなかった。そういうふうにして彼はひそかに足を運んだ。あたかも見えない中を手探りして地下の闇《やみ》の脈の中に没してゆく夜の生物のようだった。
 けれども、あるいは遠い穴からわずかの明りがその不透明な靄《もや》の中に漂ってるのか、あるいは目が暗闇になれてくるのか、少しずつぼんやりした影が見え、手で伝ってる壁や頭の上の丸天井などが漠然《ばくぜん》とわかってきた。魂が不幸のうちに拡大してついにそこに神を見いだすに至ると同じように、瞳孔《どうこう》は暗夜のうちに拡大してついにはそこに明るみを見いだすに至るものである。
 行く手を定めることは困難であった。
 下水道の線は、上に重なってる街路の線を言わば写し出して
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