よんでいる。
 過去十世紀の間汚水溝渠はパリーの病毒だったとも言い得るだろう。下水道は市が血液の中に持ってる汚点である。人民も本能からよくそれを知っていた。屠獣者《とじゅうしゃ》の仕事は、非常に恐れられて、長い間死刑執行人の手にゆだねられていたが、下水掃除夫の仕事も、昔はそれとほとんど同じように危険なものであり、同じように民衆からいやがられていた。泥工に頼んでその臭い堀の中にはいってもらうには、高い賃銀を出さなければならなかった。井戸掘り人の梯子《はしご》もそこにはいるには躊躇していた。「下水道におりてゆくのは墓穴の中にはいることだ[#「下水道におりてゆくのは墓穴の中にはいることだ」に傍点]、」というたとえまでできていた。その上前に述べたとおり、あらゆる種類の嫌忌《けんき》すべき伝説のために、その巨大な下水道は恐ろしいことどもでおおわれていた。実に世に恐れられた洞窟《どうくつ》であって、その中には、人間の革命とともに地球の革命の跡まで残っており、ノアの大洪水のおりの貝殻からマラーのぼろに至るまで、あらゆる大変災の遺物が見いだされるのである。
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   第三編 泥土《でいど
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