。」
 ジャン・ヴァルジャンはジャヴェルの首についてる鞅縛《むながいしば》りを切り、次にその手首の繩《なわ》を切り、次に身をかがめて、足の綱を切った。そして立ち上がりながら言った。
「これで君は自由だ。」
 ジャヴェルは容易に驚く人間ではなかった。けれども、我を取り失いはしなかったが一種の動乱をおさえることができなかった。彼は茫然《ぼうぜん》と口を開いたまま立ちすくんだ。
 ジャン・ヴァルジャンは言い続けた。
「私はここから出られようとは思っていない。しかし万一の機会に出られるようなことがあったら、オンム・アルメ街七番地にフォーシュルヴァンという名前で住んでいる。」
 ジャヴェルは虎《とら》のように眉《まゆ》をしかめて、口の片すみをちらと開いた。そして口の中でつぶやいた。
「気をつけろ。」
「行くがいい。」とジャン・ヴァルジャンは言った。
 ジャヴェルはまた言った。
「フォーシュルヴァンと言ったな、オンム・アルメ街で。」
「七番地だ。」
 ジャヴェルは低く繰り返した。「七番地。」
 彼は上衣のボタンをはめ、両肩の間に軍人らしい硬直な線を作り、向きを変え、両腕を組んで一方の手で頤《あご》
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