と余事を述べておく必要がある。
 当時パリーには、ボートレイイ街の造兵廠《ぞうへいしょう》の近くの古い怪しい小屋に、ひとりの怜悧《れいり》なユダヤ人が住んでいて、不良の徒を良民に変装してやるのを仕事としていた。長い時間を要しなかったので、悪者らにとっては、至って便利だった。日に三十スー出せば、一日か二日の約束で、見てるまに服装を変えてくれて、できるだけうまくあらゆる種類の良民に仕立ててくれた。衣裳を貸してくれるその男は、取り替え人[#「取り替え人」に傍点]と呼ばれていた。それはパリーの悪者らがつけた名前で、別の名前は知られていなかった。彼はかなりそろった衣服室を持っていた。人々を変装してやる衣服は相当な品だった。彼は特殊な才能を持ち、種々の方法を心得ていた。店の釘《くぎ》にはそれぞれ、社会のあらゆる階級の擦《す》れ切れた皺《しわ》だらけの衣裳がかかっていた。こちらに役人の服があり、あちらに司祭の服があり、一方に銀行家の服があり、片すみに退職軍人の服があり、他のすみには文士の服があり、向こうには政治家の服がある、という具合になっていた。その男はパリーで演ぜられる大きな泥坊芝居《どろぼうしばい》の衣裳方だった。その小屋は詐偽窃盗の出入りする楽屋だった。ぼろをまとってるひとりの悪漢が衣服室にやってき、三十スー出し、その日演じようとする役目に従って適当な服装を選み、そして再び階段をおりてゆく時には、まったく相当な人間に変わっていた。翌日になると、その衣服は正直に返却された。盗賊らをすっかり信用してる取り替え人は、決して品物を盗まれることがなかった。ただその衣服には一つ不便な点があった。すなわち「うまく合わない」ということだった。着る人の身体に合わして作られたものでなかったから、甲の者には小さすぎ、乙の者には大きすぎるという具合に、だれにもきっちり合わなかった。普通の者より小さいか大きいかが常である悪者らは、取り替え人の衣服にははなはだ具合が悪かった。またあまりふとっていてもあまりやせていてもいけなかった。取り替え人は普通の人間をしか頭に入れていなかった。ふとってもいずやせてもいず、背が高くも低くもない、始めてぶっつかった奴の身体に合わして、標準をきめていた。そのために着換えをすることが困難な場合もしばしば起こって、顧客らはできるだけの手段を尽してその困難を切りぬけようとして
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