います」]。私にはわけがわかりません。マリユスが何か言ってもあなたは私をかばって下さらないし、あなたが何かおっしゃってもマリユスは私の味方になってくれません。私はひとりぽっちです。私はおとなしく室《へや》まで用意しています。もし神様にでもはいっていただけるのでしたら、ほんとに喜んでお入れしたいくらいです。だれもその室にはいって下さる人もありません。室の借り手がないので私は破産してしまいます。ニコレットに少しごちそうのしたくをさしても、どなたも食べて下さいません。そして私のフォーシュルヴァンお父様はジャンさんと言えとおっしゃるし、また、壁には髯《ひげ》がはえていて、玻璃器《はりき》の代わりには空罎《あきびん》が並んでおり、窓掛けの代わりには蜘蛛の巣が張っているような、恐ろしい古いきたないじめじめした窖《あなぐら》のような所で、私に会ってくれとおっしゃるんですもの。あなたが一風変わった方だとは私も承知しています。あなたのいつものことですから。けれども結婚したばかりの者には、少し気を休ませてやるものですわ。あとでまたすぐに変わったこともできるではありませんか。あなたはあのオンム・アルメ街のひどい家がいいとおっしゃいますの。私はもういやでたまりません。いったい私に何を怒っていらっしゃいますの。私心配でなりませんわ。ああ!」
そして急にまじめになって、彼女はジャン・ヴァルジャンをじっと見つめ、こう言い添えた。
「あなたは、私が幸福であるのをおもしろく思っていらっしゃらないんですか。」
無邪気も時には自ら知らないで深くつき込むことがある。右の疑問は、コゼットにとってはごく単純なものだったが、ジャン・ヴァルジャンにとっては深くつき込んだものだった。コゼットはちょっとひっかくつもりだったが、実は深い傷を相手に与えた。
ジャン・ヴァルジャンは顔色を変えた。彼はしばらく返事もせずにじっとしていたが、次に自ら自分に話しかけるような何とも言えない調子でつぶやいた。
「その幸福は私の生涯の目的であった。今神は私が去るべきを示して下さる。コゼット、お前は幸福だ。私の日は終わったのだ。」
「ああお前[#「お前」に傍点]と呼んで下すったのね!」とコゼットは叫んだ。
そして彼女は彼の首に飛びついた。
ジャン・ヴァルジャンは我を忘れて、彼女を惘然《ぼうぜん》と自分の胸に抱きしめた。彼はほとん
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