のこぎり》形をし、入り組み、広い裂け目を銃眼とし、それぞれ稜角堡《りょうかくほう》をなす多くの築堤でささえられ、そこここに突起を出し、背後には人家の大きな二つの突出部が控えていて、既に七月十四日([#ここから割り注]一七八九年[#ここで割り注終わり])を経てきたその恐るべき場所の奥に、巨大なる堤防のようにそびえていた。そしてこの大親たる防寨の後ろには、各街路の奥に十九の小防寨が重なっていた。その郭外のうちにある広大なる半死の苦しみは、困窮が最後の覆滅を望むような危急な瞬間に達していることが、防寨を一目見ただけで感ぜられた。しかも防寨は何でできていたか。ある者の言によれば、七階建ての人家を三つことさらに破壊して作ったものだといい、ある者の言によれば、あらゆる憤怒の念が奇蹟的に作り上げたものだという。そして憎悪《ぞうお》のあらゆる手段をもって築かれた痛むべき光景、倒壊の趣を持っていた。だれがそれを建設したか、とも言い得らるれば、だれがそれを破壊したか、とも言い得られた。沸騰せる熱情が即座に作ったものであった。扉《とびら》、鉄門、庇《ひさし》、框《かまち》、こわれた火鉢《ひばち》、亀裂《きれつ》した鍋《なべ》、すべてを与え、すべてを投げ込み、すべてを押し入れころがし掘り返し破壊しくつがえし打ち砕いたのである。舗石《しきいし》、泥土、梁《はり》、鉄棒、ぼろ、ガラスの破片、腰のぬけた椅子《いす》、青物の芯《しん》、錠前、屑《くず》、および呪詛《じゅそ》の念などから成っていた。偉大であり、また卑賤であった。渾沌《こんとん》たるものが即座に作った深淵《しんえん》であった。大塊に小破片、引きぬかれた一面の壁にこわれた皿、あらゆる破片の恐るべき混和、シシフォス([#ここから割り注]訳者注 地獄の中にて絶えず大石を転がす刑に処せられし人―神話[#ここで割り注終わり])はそこにおのれの岩を投げ込み、ヨブはそこにおのれの壜《びん》の破片を投げ込んでいた。要するにまったく恐ろしいものだった。浮浪の徒の堡塁《ほるい》だった。くつがえされた多くの荷馬車はその斜面を錯雑さしていた。大きな大八車が一つ、車軸を上にして横ざまに積まれて、紛糾した正面に一つの傷痕《きずあと》をつけてるかのようだった。乗り合い馬車が一つ、砦《とりで》の頂にむりやりに引き上げられ、あたかも荒々しい砦の築造者らが恐怖に悪戯を添
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