の先頭にすぎなかった。そしてその縦隊というのは無論襲撃隊であった。防寨《ぼうさい》を破壊する任務を帯びてる消防工兵は常に、防寨を乗り越える任務を帯びてる兵士の先に立つべきものである。
 一八二二年クレルモン・トンネール氏が「首繩《くびなわ》の一ひねり」と呼んだ危急の瞬間に、人々はまさしく際会していたのである。
 アンジョーラの命令は直ちにそのとおり実行された。かく命令が急速に正確に行なわれるのは船と防寨とに限ることで、両方とも脱走することのできない唯一の戦場である。一分間とたたないうちに、アンジョーラがコラント亭の入り口に積ましておいた舗石の三分の二は、二階の屋根裏に運ばれ、次の一分間が過ぎないうちに、それらの舗石は巧みに積み重ねられて、二階の窓や屋根裏の軒窓の半ばをふさいだ。主任建造者たるフイイーの考案によって巧みに明けられた数個の間隙《かんげき》からは、銃身が差し出されるようになっていた。かく窓を固めることは、霰弾《さんだん》の発射がやんでいたのでことに容易だった。が今や二門の砲は、襲撃に便利な穴を、あるいはでき得べくんば一つの割れ目を、そこに作らんがために、障壁の中央めがけて榴弾《りゅうだん》を発射していた。
 最後の防御物たる舗石《しきいし》が指定の場所に配置されたとき、アンジョーラはマブーフの死体がのせられてるテーブルの下に置いていた壜《びん》を、すっかり二階に持ってこさした。
「だれがそれを飲むんだ。」とボシュエは尋ねた。
「奴《やつ》らが。」アンジョーラは答えた。
 それから人々は一階の窓をふさぎ、夜分に居酒屋の扉《とびら》を内部から締め切ることになってる鉄の横木を、すぐ差し入れるばかりにしておいた。
 要塞は完全にでき上がった。防寨《ぼうさい》はその城壁であり、居酒屋はその櫓《やぐら》だった。
 残ってる舗石で人々は防寨の切れ目をふさいだ。
 防寨の守備軍は常に軍需品を節約しなければならないし、攻囲軍もそれをよく知ってるので、攻囲軍はわざわざ敵をあせらすような緩慢な方略を用い、時機がこないのに早くも銃火の中におどり出してみせるような外観だけの策略を事とし、実際はゆっくり落ち着いてるものである。襲撃の準備はいつも一定の緩慢さをもってなされ、次に電光石火の突撃が始められる。
 その緩慢な準備の間に、アンジョーラはすべてを検査しすべてを完成するの暇を得た。
前へ 次へ
全309ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング