ス。攻撃のいっせい射撃があった時、彼はようやくその物音を耳にして我に返ったかのようで、突然立ち上がり、室《へや》を通りぬけ、アンジョーラが「だれも出ないか」と繰り返した時に、ちょうど居酒屋の入り口に現われていた。
 彼の姿は一群の間に感動をひき起こした。ある者は叫んだ。「あれは投票者だ([#ここから割り注]訳者注 ルイ十六世の処刑に賛成の投票をした者[#ここで割り注終わり])、国約議会員だ、人民の代表者だ!」
 おそらくその声も、彼の耳にははいらなかったろう。
 彼はまっすぐにアンジョーラの方へ進んで行った。暴徒らは深い畏敬《いけい》の念でその前に道を開いた。彼は惘然《ぼうぜん》としてあとに退《さが》ったアンジョーラの手から、軍旗を奪い取った。そしてだれもあえてそれを止めることも手伝うこともできないうちに、八十歳を越えたこの老人は、頭を打ち振り、しかも確乎《かっこ》たる足取りで、防寨の中につけられてる舗石《しきいし》の段を徐々に上りはじめた。いかにも痛ましいまた壮大な光景であって、周囲の人々は叫んだ、「脱帽!」一段一段と上りゆく彼の姿は、恐ろしいありさまだった。その白い頭髪、老衰した顔
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