Dニ街区へ
シャンヴルリー街の防寨《ぼうさい》へマリユスを呼んだ薄暗がりの中の声は、彼にはあたかも宿命の声かと思われた。彼は死を望んでいたが、その機会が今与えられたのである。彼は墳墓の扉《とびら》をたたいていたが、闇の中の手が今や彼にその鍵《かぎ》を与えたのである。絶望の前に暗黒のうちに開かれる痛ましい戸口は、常に人の心を誘う。マリユスは幾度となく自分を通してくれた鉄門の棒をはずし、庭から出て、そして言った、「行こう!」
悲しみのために心乱され、もはや脳裏には何ら一定の確乎《かっこ》たるものをも感ぜず、青春と愛と歓喜とのうちに二カ月を過ごした後今や運命を少しも受け入れることを得ず、絶望からくる夢想に一時に圧倒されて、彼はもうただ一つの望みしか持っていなかった、すなわち、すみやかにいっさいを終えること。
彼は足早に歩き出した。ジャヴェルが与えた二つのピストルを持っていたので、おりよく武装していたわけである。
ちらと目に見えた若者は、街路のうちに彼の目からのがれてしまっていた。
マリユスはブリューメ街を大通りへぬけてゆき、エスプラナードとアンヴァリード橋とを過ぎ、シャン・ゼリゼ
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